The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「…?」

帰宅後、数十分ほどたっただろうか。

俺は、何とも言えないお香の香りで目を覚ました。

…何の匂いだ?これ。

芳香剤の香りじゃない。香水の香り…という訳でもない。

決して良い匂いではない。何と言うか…植物を煎ったような…どちらかというと線香のような…。

どっかで葬式でもしてるのかな…と思った。

が、今は夜中なので、こんな時間に葬式はしない。

次に、俺は暗闇の中に赤い炎が揺らめいていることに気がついた。

…蝋燭だ。

何故か、蝋燭が並んでいる。

俺をぐるりと一周取り囲むように、何本もの蝋燭が並んでいた。

それだけじゃない。

「はっ!?」

俺の身体には、変な文字が描かれたお札のようなものがべたべたと貼り付けられていた。

起き上がると、俺が寝ていた廊下の床に、白いチョークで逆五芒星が描かれていた。

極めつけは。

ぶつぶつと、何語か分からない謎の言語で念仏のようなものを唱える声が、暗闇の中で不気味に響いていた。

恐る恐る声の方向に顔を向け、そして、後悔した。

「うわぁっ!?」

見慣れたはずの小柄な女の子が、魔女のような黒い服を着て、杖と本を持って、数珠をじゃらじゃら鳴らしながら、呪文を唱えていた。

その姿は、儀式に臨む魔術師そのものであった。

恐怖のあまり、一瞬で酔いが覚めた。

「ふっ…ふ、フューニャ?」

あなた…何を、呼び出そうとしてるんですか?

「…あら」

フューニャは呪文を唱えるのをやめ、ぎろっ、と俺を睨んだ。

そして、冷ややかな声でこう言った。

「…生け贄が起きた」

俺はその日、観測史上最速の速さで、逆五芒星の上でフューニャに土下座した。
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