The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
しゃー、しゃー…と。

普段聞くことのない異音が、俺の耳に届いた。

「…ん…」

何の…音だ?これは。

と言うか、俺…何してたんだっけ?

ぼんやりした頭で、俺は自分が何をしているのか、何処にいるのかを考えた。

まず起き上がろうと思った。しかし、出来なかった。

「…!?」

俺はダイニングテーブルの上で手足を大の字に拘束されていた。

…何で俺、磔にされてんだ?

結構な力を入れて手足を動かしてみたが、どんな縛り方をしているのか、全然外れない。

酔っ払っているのもあって、身体に上手く力が入らない。

そのとき俺は、自分がとんでもない過ちを犯したことを思い出した。

そうだ。俺は…飲まないと言ったのに飲んで帰った。

日付が変わる前に素面で帰ると言った。

しかし、自宅に帰った頃にはとっくに日付は変わっているし、この通り俺はべろべろに酔っている。

どう考えてもギルティだ。

そして、先程から聞こえているこの異音は何なのか。

しゃー、しゃー…と…何処かで聞き覚えのある…金属を擦るような…。

そうだ。思い出した。

俺の部下が以前、「刃物の手入れはちゃんとしとかないといけませんよね~」なんて言いながら、砥石でナイフを研いでいた、あの音…。

「…!!!」

俺は命の危機を感じ、必死に拘束から逃れようともがいた。

しかし。

美しく研ぎ澄まされた出刃包丁の煌めきと、フューニャの冷たい眼光が暗闇の中に光った。

単身敵組織に取り囲まれたときよりも、遥かに死の危険を感じた。

「ふっ、フューニャ…な、何を」

「…あら」

フューニャは出刃包丁を携え、ゆらり、と近づいてきた。

「…肉が起きた」

縛られていなければ、俺はその場で頭を床に擦り付けて土下座していたことだろう。

しかし、今回はそれも出来なかった。
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