The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
後から、振り返ってみれば。

なんとも臭い台詞を言ったもんだなぁ…と思う。

冷静に考えると…結構気持ち悪いこと言ってるよな。

え?こいつ何言ってんの…?とドン引きされてもおかしくなかった。

プロポーズの言葉にしては、いささかロマンティックさに欠ける。

大体、花束もなく、指輪もなく、綺麗な夜景もないのに…よくプロポーズしようと思えたものだ。

それだけ、切羽詰まっていたのだ。

「…つまり俺と…結婚しないか、ってことなんだけど…」

「…」

「…駄目、かな」

「…」

フューニャは何も答えず、その代わりに。

ぽろっ、と涙を溢した。

…え?マジで?

「ご、ご、ごめん!俺、デリカシーの欠片もなく…」

そこで俺は初めて、自分がとんでもなくデリカシーに欠けたことをしてしまったのだと気がついた。

もう少し…遠回しな言い方をすれば良かったものを。

いきなり、こんな直球ど真ん中のストレートをぶち込むなんて。

ましてや女性にとっては、プロポーズなんて一生ものの思い出になるだろうに。

こんな気色悪い男にプロポーズされた…と、フューニャは泣いているのだろうと思った。

しかし。

「以前…あなたの未来を占ったとき」

フューニャは指先で涙を拭って、こんな風に語った。

「あなたの横で…一緒に笑ってる私が見えて」

「…え」

「嬉しかったけど…。そんな未来は有り得ないって思ってました。あれは占いじゃなくて、私の願望を見ただけなんだって…。…でも」

フューニャは笑った。涙を滲ませながら、でも、今まで見た中で一番可愛くて、綺麗な笑顔だった。

「…どうやら、現実になりそうですね」

「…フューニャ…。それって」

「はい。イエス、ですよ」

「…」

…イエス。

イエスってことは、つまり。

「私のなりたい名字の、第一候補は…あなたの名字ですから」

「フューニャ…」

「私は今日から、フューニャ・クランチェスカです」

「…!」

俺は身体の力が抜けて、ふにゃふにゃと床にへたり込んだ。

…なんてこった。

「大丈夫ですか?ルヴィアさん」

「フューニャ…。俺は今、人生で一番幸せだ…」

「奇遇ですね、ルヴィアさん…。私もそう思っていたところです」

腰が抜けてしまった俺に、フューニャがそっと手を差し伸べてきた。

俺はその手を掴み、そのまま彼女を抱き締めた。

「…あなたの妻は、汚い女ですよ。好きでもない男にお金の為に抱かれてきた汚い女です」

「知ってる…。でも俺は、そんな女が…君が、好きで堪らないんだ」

「ルヴィアさん…」

好きでもない女を抱く趣味はないって、前に言ったよな。

そして目の前にいるのは。

「…俺はフューニャが好きだよ」

「ありがとうございます。…私もあなたのことが大好きです」

そう言ったときのフューニャの笑顔が、本当に可愛くて。

一生、大切にしようと思ったのだ。
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