The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「お帰りなさい、ルヴィアさん」

フューニャは俺が帰ってきたのを聞き付けて、てこてこと寄ってきた。

あぁ可愛い。可愛いのだけど、今はそれよりも平然とした顔を作り続けることで精一杯だった。

「ただいま…。フューニャ」

「…?」

いつもなら、ここでまずフューニャの浮気チェックが入り、それを無事クリアすると、ぽふ、と抱きついてきてただいまのキスをせがんでくるのだが。

フューニャは俺に歩み寄ってはきたものの、匂いを嗅ぐでもなく、抱きつくでもなく、じーっと俺を見つめていた。

…何やってんだろう?

支えなしで立ちっぱなしがきついから、そろそろ入っても良いかな…?

「ルヴィアさん…」

「うん…?」

「その状態で、ここまで帰ってきたんですか?」

「…え?」

冷や汗が背中を流れた。

「フューニャ…あの…何のことか…」

「とぼけても無駄です。そんなお粗末な演技で、私を騙せると思いましたか」

「…」

「血と、それから消毒液の匂い。全く隠せてませんよ」

「…参りました…」

フューニャの言う通り。

煙草の臭いは勿論、俺についた香水の香りまで嗅ぎ分けるフューニャが、消毒液の匂いが分からないはずがないじゃないか。

俺が甘かった。

「ほら、歩けます?支えましょうか?」

「大丈夫…」

「何処が大丈夫なんですか。そんなにふらふらして」

済みません。

強がろうにも強がらせてもらえず。

フューニャが肩を貸してくれたので、俺は情けないことに、彼女に支えられるようにして寝室に連れていかれた。

痛みを我慢しようとしたのだが、横になるときにずきっ、と傷口が痛み…声は出さなかったものの、露骨に顔をしかめてしまった。

フューニャがそれを見逃すはずがなく。

「何があったんです?」

「ちょっと…。下手をしてな」

「見せてみなさい」

「え、あ…ちょ」

止める間もなく、ぐい、と服を捲られる。

白い包帯と、滲んだ赤い血が露になる。

あぁ…見せまいと思っていたのに。

「…」

傷を見て、フューニャは険しい顔。

怖がっている…訳ではなさそうだ。

それもそうか。フューニャは元々、血を怖がる女ではなかった。

「ごめんな…フューニャ。心配かけて…」

それが嫌だから、なんとか隠そうとしたのに。

「私はあなたの心配なんて、これっぽっちもしていません。自惚れないでください」

フューニャはふいっ、とそっぽを向いてそう言った。

え。心配…少しもしてないの?

それはそれでちょっと寂しい…ような。

「その様子じゃ、私が折角用意した夕飯は食べられませんね。仕方ないので私が二人ぶん、たらふく食べてきます。あなたは一人で寝ててください」

「あ…うん。ごめんな」

フューニャはそそくさと寝室から出ていってしまった。

別にちやほやされたい訳ではないけど…。

…やっぱり、ちょっと寂しい。

いやいや、心配させたくなくて黙っていたんだから。結果としてはフューニャは心配しなかったんだから、俺は安心するべきなのだが。

…まぁ、仕方ない。怪我人は大人しくしてろってことだ。

何にせよ、これでもう…フューニャに勘づかれないように演技する必要はなくなった。

そう思うと、少しは気が楽だった。
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