The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「何でそんなもん、送ってきたんだ…?」

「さぁ…。それは分からないが」

あの男が考えていることは、俺達には計り知れないからな。

「…まぁ良い。余計なトラブルを招く前に、さっさと捨てちまえ。ちゃんと鍵付きのゴミ箱に捨てろよ。誰かが拾ったら大変だからな」

「え」

「は?」

ぽかんとするオルタンス。

いや、ぽかんとしたいのは俺の方なんだが?

「…食べないのか?」

「お前、食べるつもりだったのか!?」

マフィアから送られてきたチョコレートを食べるって…こいつ、気は確かか?

「先程鑑識に調べてもらったところ、毒物の反応はなかったそうだ」

「だからって食うか!?さっきのレシート見たろ?惚れ薬みたいなの入ってたらどうするつもりなんだ」

「あぁ、それは別に…。第三者から見てどうであれ、少なくともルレイアのハーレム会員達はあれで幸せなのだろうからな」

「…」

俺は…お前が大物なのか、それとも本物の馬鹿なのか分からないよ。

それで良いのか。お前は。

「いや…やめとけよ…」

ルレイアのことだ。オルタンスに向かって、悪意なしに贈り物をするなんて有り得ない。

この状況で派手に喧嘩を売るのは、双方メリットは何もない。

そんなことは奴も分かっているだろうから、恐らく…両者に深刻な不和をもたらすようなことは、ルレイアもしないはず。

だからそのチョコも、そういう意味では確かに安全だ。

食べたところで、死ぬとか、深刻な体調不良に陥るようなことはないだろう。

でも、問題にならない程度の嫌がらせくらいは、してくる。

あいつはそういう人間だ。

で、オルタンスはそれを理解していながら…奴のチョコを食べると言うのか?

見えてる落とし穴に嵌まりに行く趣味でもあるのだろうか。

「でも…俺は、人生で初めて人間にチョコレートをもらったんだ」

「…」

「初めてのバレンタインチョコを…捨てたくはないだろう?」

「…それが例え、敵から送られてきたものでも?」

「アドルファス…。チョコレートに罪はない」

「…」

「…」

「…」

無言で見つめ合う、男三人。

ルレイアが見たら、腹を抱えて大爆笑していたことだろう。
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