The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
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Ⅰ (5/39)
一言で言うなら、ランドエルスは「緩い」のだ。
遅刻をしたり宿題を忘れれば、そりゃ怒られはするけど、殴られたり、怒鳴られることはない。
他の騎士官学校がそうであるように、厳しい上下関係もない。
具体的に例えるなら、
「教官!実は自分、今週末に温泉旅行行くんですよ~」
「おぉ、そうか。羽目外し過ぎるなよ!」
なんて、気さくな会話を教官と出来る。そのくらいの緩さはあった。
こんな会話、一般的な騎士官学校ではまず有り得ない。
教官は神様も同然。そんな教官様に、軽い口を利くなんて言語道断であった。
こんなこと、帝国騎士官学校でしようものなら、問答無用でぼこぼこに殴られることだろう。恐ろしや。
しかも週末に遊びに行くなんて、それだけでも眉をひそめられるような行為だった。
意識の高い騎士官学校生に、遊びにうつつを抜かしている余裕はない。
休日だろうが何だろうが、自己鍛練の為に時間を費やすのが当たり前だった。
そしてそうでもしなければ、ついていけないくらいに厳しかった。
しかしランドエルスはそんなことはない。週末に遊びに行くのはごく自然なことだし、週末には勉強と剣の稽古をしていました、なんて言ったら「真面目だな」と尊敬されるくらいだ。
校則そのものも緩く、少々制服を着崩していたとしても、多少風紀担当の教官にたしなめられるくらいで、怒られることはほとんどないし。
髪の毛も、派手な色でなければ、染めることも容認されていた。
おまけに共学だった。大抵の騎士官学校は、男女で校舎が分かれているものだが。
だからうちは、騎士官学校という名前を冠してはいるが、一般的な普通科の高校に近かった。
一応それでも騎士官学校だから、剣の授業を始め、帝国騎士になる為の授業が中心ではあるが。
熱心に、「将来は立派な帝国騎士になる!」と意気込んでいる生徒は稀だった。
実際、ランドエルスを卒業して、本当に帝国騎士になる生徒は、全体の三分の二くらいに過ぎなかった。
いやいや充分に多いじゃないか、と思うかもしれないが。
普通騎士官学校に入学したら、余程何かやむを得ない事情がなければ(後遺症が残る怪我をしたとか、在学中に家族に大事があって、実家を継がなければならないとか)、100%近い生徒が帝国騎士団に入団してした。
それを思えば、ランドエルス卒業生の帝国騎士団への入団率はかなり低めだった。
これは入団テストに受からなかったとか、そういう理由ではない。
そもそも帝国騎士団は基本的に来る者拒まずなのだから、入団テストに落ちるということはほとんどない。
そうではなく、ランドエルスの生徒は、帝国騎士になる為に入学した訳ではない者が多いのだ。
じゃあ何の為に来たんだ、という疑問が沸くことだろう。
これには、主に三つの理由がある。
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