The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
「ほら、可愛いっしょ?」

「確かに美人ね」

「へぇ~…」

俺の周りにいた、皆が彼女を見つめていた。

美人だな、って。可愛い子だって思いながら眺めていた。

でも俺は違った。

…見つけた。

頭の中にあるのはそれだけだった。

まさか鴨がネギを背負って、向こうからやって来てくれるとは。

これも日頃の行いだな。

さっきまでの不機嫌は宇宙の彼方に消えた。『シュレディンガーの猫』のスパイを…探すまでもなく見つけることが出来たのだから、何の文句もない。

あの女だ。間違いない。

見れば分かる。あの目は…人を殺した目だ。

血と臓物の色を知っている人間だ。

俺と同じ、人の不幸に付け入って、人の生き血を啜って生きている人間だ。

そして俺に必要なのは、それを彼女に悟らせないことだった。

「…ルナニア?」

俺の目の色が変わったことを訝しんだのか、エルスキーが俺の名前を呼んだ。

エルスキーがその名前で呼んでくれたから、俺はルナニアに戻ることが出来た。

「?どうしました」

「いや…なんか怖い顔してるから」

「え。俺怖い顔なんかしてました?」

おどけてみせる。ルナニアを演じる。

ここからは、騙し合いだ。

俺はあの女に、『青薔薇連合会』のスパイだと気づかせてはいけない。

俺がマフィアの人間だと悟らせてはいけない。

ただのルナニア・ファーシュバルだと思わせておかなければ。

勿論、エルスキー達もそうだ。今まで通り、こいつらも騙さなければならない。

並大抵の精神で出来ることではない。

でも俺はやる。やってみせる。

それが、ルレイア・ティシェリーの存在理由だ。

「それにしても彼女、本当に美人ですね」

「全くだな」

能天気に微笑んでみせながら、腹の中は恐ろしく冷たかった。
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