The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
翌日。

早速ミューリアが、俺をハバナに紹介してくれた。

と言うより、彼女を強引に俺達のグループに放り込んだのである。



「この人はエルスキー・ミルヴァーレン。見た目はちょっとチャラいけど、意外と友達思いの良い奴よ」

「宜しく」

軽くぺこり、と会釈するエルスキー。

ハバナ・ユールシュルは興味なさそうに一瞥しただけだった。

「次。こっちがアシベル・ウィシナー・カルトヴェリア。見た目もチャラいし中身もチャラい。でもこう見えて貴族の名家、カルトヴェリア家の血筋なのよ。聞いたことある?」

「えぇ」

カルトヴェリア、の名前を聞いて、ハバナの目がきらり、と光った。

そりゃ当然。『シュレディンガーの猫』なら、ルティス帝国の名門貴族の名前は聞き捨てならないだろう。

この時点で、ハバナがアシベルに目をつけたのは言うまでもない。

「ねぇ~。見た目も中身もチャラいって何?」

自分の紹介のされ方がお気に召さなかったらしいアシベル。

「何よ。その通りでしょ?」

「失敬な!見た目はともかく中身は真面目です!」

「嘘言うんじゃないわよ。数学の課題未提出で居残り食らってるような奴の、何処が真面目ですって?」

ミューリアに手痛いしっぺ返しを食らい、アシベルはぺろっ、と舌を出してみせた。

このおちゃらけた性格。騙すのも手玉に取るのもやりたい放題だな。

ハバナの考えてることがよく分かる。いざというとき、こいつは使える。そう思っているのだろう。

俺だってそう思ってる。

ただ、アシベルは馬鹿過ぎて利用法に困るのが難点だ。

馬鹿とアシベルは使いよう、ってね。

そして。

「こっちがルナニア。ルナニア・ファーシュバル。見た目は真面目だけど中身はちょっとチャラいかしらね」

え。ちょっと。

「ミューリアさん、それはおかしい。俺こそ見た目も中身も真面目ですよ?」

そこは俺をプッシュするべきなのでは?何の為に紹介してんだ。

「冗談よ。ルナニアは結構優しいし、自称真面目だから。几帳面だしね。仲良くしてやってちょうだい」

「…えっと。宜しくお願いしますね、ハバナさん」

「…」

にこやかに微笑んでみたのだが、ハバナは無言で頷くだけだった。

顔色の一つも変えない。可愛いげのない女だ。

今彼女が考えているのは、アシベルをどう利用するかということだけだろう。

「…どうして彼らを私に紹介するの?」

ハバナは、ミューリアに向かって尋ねた。

実にもっともな疑問だ。いきなり引っ張って連れてきて、男三人を紹介されるなんて不自然に決まっている。

しかしミューリアは、ちっとも動じなかった。

「あら。だってクラスメイトじゃない。去年まではクラスも別々だったし、知る機会もなかっただろうと思って」

本当は、ハバナに俺の存在を意識させる為、なのだが。

ミューリアはそれを言わずに、綺麗にかわしてみせた。

ナイスだ。アホ女でもたまには役に立つ。

「これから仲良くしていきましょうよ。折角同じクラスになったんだし」

「…そうね」

ハバナは静かに答えた。彼女の目は、俺を見てはいなかった。

その瞬間、俺は良かった、と思った。
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