元カレ救命医に娘ともども愛されています
プロローグ



妊娠検査薬の陽性表示を見降ろし、私は動けなかった。
いや、検査をする前から予感はあったのだ。そしてそれが現実になっただけ。
私のお腹には和馬の子どもがいる。半月前に別れた恋人の子ども……。
結婚前提で交際し、心の底から愛し合い、それでも様々なしがらみで別れざるを得なかった恋人。最愛の和馬。
だけど、私はこの恋の終わりに納得している。二十九歳、もう子どもじゃないのだ。私たちは話し合い、冷静に別れを決めた。
子どもができたからといって、もとに戻れる状況ではない。
いや、和馬のことだ。私が妊娠を告げれば、必ず復縁を申し込んでくる。責任感が強く、そして今なお私を愛しているだろう和馬は、きっとそうする。

「言えない……」

身を切るような想いで別れを告げたのだ。和馬との恋愛は終わった。彼の人生を邪魔しないために、この子の存在を口にすることはできない。

「でも、絶対に死なせない」

堕胎は考えられなかった。宿った命への責任と同時に、愛しい和馬の遺伝子を持った子がお腹にいることが純粋に嬉しかった。
和馬とはやり直せない。だけど、お腹の子を死なせることもできない。

「ひとりで、産んで育てよう」

私は心に決めた。お腹をそっと撫で、まだ感じられない命を想う。祈りに似た強い気持ちは、愛なのだと思った。

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