元カレ救命医に娘ともども愛されています

「麗亜さんが？」

夕食の準備は置いておいて、まず今日の事件について話した。真優紀は私たちの不穏な空気など関係なく、リビングにしつらえた幼児用の滑り台に夢中だ。

「思いつめてる感じだった。なにより、私が言うことを聞かなければ、真優紀に何をするかわからないってほのめかされた」
「……許せないな」

和馬が拳を握り、チェストの上の車のキーを取る。

「待って、どこへ行くの？」
「峯田家に厳重に抗議をしてくる。月子の職場に押しかけるのも非常識だが、彼女のしていることは脅迫行為だ」
「落ち着いて。そうかもしれないけれど、まだ何か仕掛けられたわけじゃないよ」

和馬の手を抑え、車のキーをそっと取り返す。和馬は一瞬怒りに駆られたことを恥じるようにうつむき、それから言った。

「実は峯田家とのやりとりはすべて終わっているはずなんだ。弁護士を通して、婚約の事実はなかったことを証書に残してあるし、慰謝料も支払ってある」
「慰謝料？　和馬は何もしていないのに？」

初耳のことに思わず詰問口調になってしまう。

「父がずっと婚儀を進めようとしてきた結果、長く若い女性に気を持たせた状況を作ってしまったのは事実だ。資産家の峯田家に金額の大小はあまり関係ないだろうが、あちらの親御さんは俺の謝罪を受け入れ、納得してくれた」