元カレ救命医に娘ともども愛されています
その日、私たちは本当にいろいろな話をした。大学卒業から仕事について、今日までの話だ。どんな仕事をしていて、どんなふうに日々暮らしているか。大学時代の共通の仲間について、すっかり疎遠になってしまったという円城寺くんに、私が彼らの近況を話した。
円城寺くんは適宜相槌を打って聞いていたけれど、それよりも私の話を聞きたがった。

「今も叔母さんと住んでいるんですか?」
「そうだよ。女ふたり暮らしって居心地いいんだ。お互い働いてるし、マイペースなところが似てるから、気を遣わなくていいの」
「楽しそうですね」
「円城寺くんは? 大学時代は実家通いだったよね」
「今は病院近くのマンションでひとり暮らしです」

彼の務める野木坂病院は都心ど真ん中に位置している。そんなところにひとり暮らしとは。そこまで考えて、彼の実家が多摩地区の大病院であることを思い出した。

「ご実家の病院で勤務するのかと思った」
「それも考えたんですが」

彼は言葉を切って、ワイングラスを傾けた。

「父の病院では、どうしても息子という目で見られますからね」
「違う環境に身を置きたかったってこと?」

頷いて、円城寺くんは私を見た。

「期待に応えるために父の専門分野である脳神経外科を勉強していたんですよ。その過程で、救命医という仕事を意識していった感じですかね」
「大学時代にも、救命医に興味があるって言ってたね」
「覚えていてくれたんですね。救命の現場に脳血管障害の患者は多いというのもありますが、何より尊敬する医師が循環器系の名医で救命医なんです。影響されました」
「いいじゃない」

私は彼と自分のグラスにワインを満たすと、グラスを取った。
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