元カレ救命医に娘ともども愛されています

「言い訳のしようもございません。和馬さんとの縁談がなくなって、不安定ではありましたが、私たちの前ではあんな真似をするようには見えず……」
「どうかお許しください」

奥さんの方がひときわ大きな声をあげた。

「あの子はまだ二十四歳なんです！　娘の未来をこんなことで閉ざしたくないんです！　どうか、お許しください！」

和馬が怒りで拳を握る。普段穏やかな浅岡さんが私たちの代わりと言わんばかりに声を荒らげた。

「あなたたち、何をおっしゃっているんですか？　“こんなことで”？　月子ちゃんと真優紀ちゃんは怪我をしているんですよ！　お嬢さんは真優紀ちゃんをさらってどうするつもりだったんですか？」
「そうよ！　私の姪とその娘を害そうとしたお嬢さんの未来を、どうして守ってやらなきゃいけないのよ！」

琴絵さんが怒鳴る。怒り過ぎて涙があふれているのが見えた。
奥さんが泣き崩れ、ご主人が支えながらあらためて頭を下げた。

「申し訳ありません。言葉を選べず不快な思いをさせました。ですが、どうか……どうか穏便にお済ませいただくことはできませんでしょうか。娘は二度と和馬さんにも、奥様と娘様にも近づけません。怪我の治療はもちろん、あらためてお詫びのご用意をいたしたく思っております」
「金で解決できることではありません」

和馬が冷え切った声で言った。冷静過ぎて怖いくらいの声音だ。