元カレ救命医に娘ともども愛されています
二日後、週末に合わせて私たちは和馬の実家にやってきた。
済々会病院は多摩地区にある大きな総合病院で、関連の病院も多くある。和馬の実家自体は八王子の静かな地域に立地していた。門構えは立派で、その向こうには大きな邸宅が広大な敷地に悠々とそびえている。
和馬のお父さんは今、この邸宅内にいる。朝、出発前に和馬が電話をした。今日在宅の予定は事前に確認していたようだけれど、アポイントを直前にしたのは拒否を防ぐためだ。
しかし、お父さんは『わかった』とひと言答えただけのようだった。

「和馬です」

和馬がインターホンに向かって名乗った。
出迎えに出てきたのは中年女性のお手伝いさんだ。

「和馬さん、お帰りなさいませ。奥様もお嬢様もようこそおいでくださいました」

お手伝いさんに伴われ、私は真優紀を抱いて邸内に入った。広々とした玄関を抜け、和風建築の邸内の廊下を進む。縁側からは日本庭園が見え、掃除をしているお手伝いさんの姿があるので、この家の使用人はひとりふたりではなさそうだ。和馬がよく『家の者』という表現をしていたのは、この人たちのことだろう。
応接間の洋室で、和馬のお父さんは待っていた。

「突然やってきて、なんだ」

横柄な態度と視線に、緊張感がはしる。和馬が口を開いた。

「どうしても会いに来たいと思ったから不意打ちするしかなかった。悪いと思ってる」

和馬の口調も硬い。絶縁寸前だったふたりだ。もしかすると、直接会うのも冬以来かもしれない。

「お時間を取っていただきありがとうございます」

私は意を決し、お父さんに対峙した。立ち向かう勇気は和馬と真優紀がくれる。

「今日は結婚のご挨拶に参りました。秋に和馬さんと結婚します」

そう言って私は頭を下げた。和馬が横で頭を下げるのがわかる。
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