元カレ救命医に娘ともども愛されています
「それを私に言って……どうするつもりだ。私はおまえたちの仲を認めていない」

お父さんは嘲笑めいた口調で言った。

「やっぱり済々会の跡を継ぎたくなって、すり寄りにきたのか?」
「いや、俺は父さんの跡を継ぐ気はない。父さんに挨拶に来たいと言ったのは月子だ」

和馬が言い、私は顔をあげた。

「お話をしたくて参りました。私はもう二度と身を引きません。お父さんが反対するなら納得してもらえるまで待ちます」
「私は医者として和馬が都内で活動しづらくすることもできる」
「もしこの先、和馬さんの仕事を妨害するなら闘います」

背筋を伸ばし、胸を張る。あの日飲み込んだ言葉をすべて言いきろう。
和馬に愛された私の自信を、私が軽んじては駄目だ。

「和馬さんを幸せにできるのは、世界中で私ひとりだと、一生かけて証明します」

沈黙が流れた。正確には真優紀ひとりが聞き取れない内容のお喋りをしている。
お父さんはうつむき加減に黙っていたが、やがてぽつりと口を開いた。

「峯田夫妻から謝罪の連絡をもらっている。……事件の遠因は私にある」

私の頬にも真優紀の手にもまだ絆創膏が貼られている。対面の瞬間からお父さんの視界に入っていただろう。
わずかな間ののち、お父さんが頭を下げた。

「すまなかった。ふたりの怪我、……大事なお嬢さんを怖い目に遭わせたことを謝罪する」
「父さん」

和馬の声に被るように真優紀が声をあげた。私の膝からするりと降り、まったく空気を読むことなくお父さんの足元へパタパタと走っていく。
私と和馬が息を呑む中、真優紀はお父さんの顔を下から覗き込んだ。
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