元カレ救命医に娘ともども愛されています
お父さんが顔をあげた瞬間、真優紀がにこっと笑った。そしてお父さんの膝を手でぱんぱんと叩いた。

「いっよー」

真優紀の行動に私はすぐに合点がいった。
保育園でお友達と喧嘩をしてしまったとき、仲直りをする光景だ。『ごめんね』と謝れば『いいよ』と返す。まだ真優紀のクラスでは満足に発語できない子も多いし、意味も完全に理解できているかわからない。真優紀とて、上のクラスの子たちの真似で意味がわかっているかは微妙だ。
しかしこの瞬間、真優紀はお父さんの謝罪に反応した。奇跡的なタイミングだったかもしれない。

「お嬢さん……真優紀ちゃんというんだったね」
「あい!」

真優紀が元気に手をあげる。その様子にお父さんが顔をゆがめた。片手で隠すように顔を覆い、かすれた言葉が聞こえた。

「月子さん……長らく失礼な物言いを続けたことを申し訳なく思う。きみを否定し、和馬と真優紀ちゃんの幸せを遠ざけたのは私だ。すまなかった」
「お父さん……」
「いつかきみに言われた通りだよ。和馬の人生は和馬のもの。わかっていたのに病院のため、円城寺家のためなら自分のもののように扱っていいと思っていた。和馬の母親が家を出て行ったことだって、私のせいだというのに。同じことを繰り返していたよ」
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