元カレ救命医に娘ともども愛されています
浅岡さんは間もなく集中治療室に移され、琴絵さんはそのまま付き添った。和馬はその晩は帰ってきたけれど、翌日は昼から出勤のところを朝には出かけていった。浅岡さんの容体が気になっているのだろう。私はまとめておいた琴絵さんの荷物を、和馬に託した。
その日の夜、勤務中の和馬から電話があった。

「もしもし」

緊張で心臓が破れそうになりながら着信に出ると、和馬の張りのある声が聞こえてきた。

『月子、浅岡さんの意識が戻った。危険な状況からは脱したと思ってくれていい』

安堵で力が抜けそうになった。滲んできた涙を拭って、私は言う。

「ありがとう、和馬。本当にありがとう」
『浅岡さんの身体と生命力が強かったんだ。琴絵さんからも連絡があると思うよ』

電話を切ると、琴絵さんからのメッセージが入っていた。浅岡さんが目覚めたこと、容体が安定してきたこと……。文字を追うだけで涙がこぼれる。
真優紀が足元で不思議そうに私を見上げている。泣いているのが珍しかったのか、心配したのか。

「真優紀、浅岡のおじさん、目が覚めたって」

抱き上げて語り掛けると、真優紀はよくわからないようで「ねー」と相槌の返事をした。
医師としての和馬をよく知っているつもりだった。
だけど、日頃彼がいかに生死の境界に近いところで生きているのかを、本質的には理解できていなかったのかもしれない。
和馬が医師としてひとりの命を救う瞬間を目の当たりにし、あらためて畏敬の念に近い感情を覚えた。そして、なにより誇らしかった。
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