元カレ救命医に娘ともども愛されています
浅岡さんをあまり疲れさせられないのと、真優紀がじっとしていないので、早々にお見舞いは切り上げて病室を後にした。帰りは和馬の車でともに帰宅となる。

「和馬、本当にありがとう」
「いつも通り仕事をしたまで……と言いたいけど、俺も正直怖かった。知り合いの処置をしたのは初めてだったからね。当番の外科医にすぐに手術に入ってもらったし、俺も第二執刀医で入ったけど、処置の段階では危ない瞬間があった。回復したのは浅岡さんの力だよ」

運転席でそう言う和馬は、心から安堵した横顔。仕事を終えたこの人の静謐な横顔を見ていると、不思議な心地だった。命の現場から戻ってきたのだと感じられた。

「今はただただホッとしてる」
「うん」

車はなめらかに幹線道路を進む。ずっと起きていた真優紀がチャイルドシートで寝息を立て始めていた。

「月子、いつか話したけれど、結婚式をやらないか?」
「和馬……どうしたの?」
「先日の父との和解も、今回の浅岡さんの事故も、家族には色々なことがあると感じさせられた。みんなの心に残る記念のイベントは、やれるときにやっておいた方がいいと思うんだ」

その考えは確かにその通りだ。みんないつまでも健康でいてくれればいいけれど、私の両親のような事故は起こりうる。
家族みんなの特別な記憶のひとつとして、私と和馬の門出の思い出はあってもいいのかもしれない。
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