元カレ救命医に娘ともども愛されています
「お先に失礼します」

私はオフィスのメンバーに声をかける。むやみに残業をしていい時代でもないので、定時を過ぎて三十分もすると、それなりの人数が帰宅していく。その波に乗った私を、隣のデスクの桜田さんがにまにまと見上げる。

「月子先輩、最近ご機嫌~」
「そう? 普通だけど」

虫垂炎から完全復帰の彼女は、元気いっぱい私のチームで働いてくれている。下から意味深な視線で見上げてくるので、私がどぎまぎした。

「今日はデートですか?」
「友達と食事」

桜田さんが虫垂炎で倒れた事件をきっかけに、後輩と再会し交際に発展しているとは言えない。

「デートだ、デート。月子先輩、もともと綺麗だけど、最近肌つやつやで瞳キラキラ。恋の力だ」
「こら、滅多なこと言うと同性でもセクハラですよ」

ふざけておでこをつつくと、桜田さんがきゃあっとおどけた声をあげた。

「じゃあ、今日のところはお友達と食事ってことで了解です~。楽しんできてくださいね~」
「桜田さんも、早めにあがりなさいね」

私は後輩のツッコミをどうにか流して、オフィスを出た。
待ち合わせは新宿駅。南口の雑踏、花屋の近くで彼を見つけた。

「和馬、お待たせ」
「月子、お疲れ様。全然、待ってないよ」

駆け寄った私の腰を優しく抱いて、エスコートしてくれる円城寺和馬。私の恋人は間近く覗き込んで、尋ねる。

「月子、今日は焼肉の気分だってメッセージで言ってたよね」
「そう。昨日の夜から焼肉の口なんだぁ。和馬は大丈夫?」
「いいよ。俺は毎日焼肉でもいいくらいだから」
「そんなに肉好きだったっけ」
「男子は肉好きなんだよ。いくつになっても」
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