元カレ救命医に娘ともども愛されています
ぴったりくっついて夜の街を歩く。空気はすでに冷たく、秋が深まっていた。初夏に再会した私たちは夏に恋人になり、今新しい季節をふたりで過ごしている。
繁華街の焼き肉店でお腹いっぱいになるまで食事し、腹ごなしも兼ねて散歩した。気が済むまで歩いたら赤坂にある和馬のマンションまでタクシーで運んでもらう予定である。
繁華街を離れ、オフィスやマンションが並ぶ地域にくると、いっきに静かになる。歩いている人は多いけれど、皆家路を急ぐ人ばかり。
私たちはぴったりと寄り添って歩いていた。

「寒くない?」

和馬が肩を抱いてくれるので頭をもたせかける。

「くっついてたらあったかいよ」
「うん、月子は体温が高いな」
「ふふ、昔から体温高めなの。ゆたんぽみたいでしょ」

和馬が私の耳に唇を押し付けるようにささやいた。

「じゃあ、今夜は月子のゆたんぽを抱いて眠ろうかな」
「……駄目だよ。帰るからね」

琴絵さんもいるし、あまり頻繁に外泊しないようにしているのだ。大人として自己責任ではあるけれど、半分親代わりの琴絵さんの前で和馬に夢中になっている姿をあまり見せたくない。節度ある交際をしているように見せたいのは、私が見栄っ張りなのか、二十八歳にもなってメンタルは子どもなのか。

「帰したくない」

和馬はそう言って、私を抱きすくめ、耳にキスをした。

「こーら。駄目でしょ」
「月子はそうやってお姉さんぶろうとするけれど、ベッドの中では可愛い女の子になるって、俺は知ってるから」
「そういうことを外で言わないの」

大人の距離でいたいのに、和馬の情熱に流されそうになってしまう。恋を叶えてから、和馬は時間を惜しんで私と会いたがってくれるし、ふたりきりのときは溺れるほどの愛をくれる。その愛にほだされて、私もどんどん離れられなくなる。

「月子」

甘いささやきに、とうとう根負けした。帰宅するかどうかは置いておいて、私も早く彼の温度を感じたい。

「タクシー、呼ぼう。早く帰ろ」
「ああ」

待ちきれないように和馬が私の頬にキスをした。
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