元カレ救命医に娘ともども愛されています
和馬の部屋は赤坂の一等地にある高層マンションだ。
勤務先から住宅手当が出ていると言っていたし、大病院の福利厚生としては頷ける。それでも、和馬のベッドから都心の夜景を眺めていると、自分がずいぶん場違いなところにいるような気がした。
正直、お金には苦労した学生時代だった。同じ大学に通っていても、学生の貧富の差は結構はっきりしていて、アルバイト漬けの子や節約してなかなか遊べない子は多くいた。一方でリッチな学生も多く、特に医学部や薬学部は資産のある家庭出身者の割合が高く、和馬もまた総合病院を営む家の御曹司。
おそらく和馬の生活レベルなら、こういったマンションにひとり住まいするのは普通なのだろう。私が同じだけの収入があったとしたら、きっと住まいは変えずに貯金してしまうんだろうな。
激しく愛し合ったあとでも、こんな一瞬に自分と和馬の生きてきた世界の差に愕然とする。

「月子、どうした?」

横たわり夜景を見つめる私を、和馬が覗き込んだ。私は顔を傾け、夜景から和馬に視線を移した。にっこり笑って見せる。

「綺麗だなあって思っただけ」
「そう。職場に近いから選んだし、あまりじっくり夜景を見ることもないけれど、月子が喜んでくれるならこの部屋でよかった」

夜景も部屋も立派で綺麗で、私の身の丈に合わないように感じてしまう。和馬が困惑するだろうから、口にしないだけ。

「でもさ、結婚して子どもができたら、戸建てを買おうよ」

和馬の言葉に私は微笑んだ。まるで無邪気な未来予想図をはっきりと口にする和馬が愛しい。

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