元カレ救命医に娘ともども愛されています
1.再会



救急車のサイレンを車内で聞くのは初めての経験だった。怪我でも病気でも救急車に乗った経験がないのだ。今、私の前のストレッチャーに乗せられ呻いているのは、会社の後輩の女の子。私は彼女の手を握って、病院への到着を待っていた。
同僚たちとの夕食会の後、駅へ向かう道すがら急に彼女が腹痛を訴えてうずくまったのだ。初めての救急車は、付き添いとして同乗となった。痛そうな後輩に、私も脂汗が出そうだ。病院まであとどれくらいかかるだろう。
15分ほどで到着したのは都内の大きな総合病院だった。一般外来は当然閉まっている時間で、救急の入口から彼女がストレッチャーで運ばれていく。
私も一緒に『高度医療救命センター』と書かれた病院内へ入った。
スクラブ姿の医師と看護師が見え、救急救命士が状況と容態を医師に伝えているのが見えた。若い医師はてきぱきと指示を出し、彼女に歩み寄る。

「痛いところはお腹ですか」

覗き込んで尋ねる。彼女はうめき声をあげ、何か言いたげにしている。私は駆け寄って口を挟んだ。

「お腹全部が痛いと言っていました。夕方くらいから、違和感があったと」

医師が顔をあげ、一瞬私を見た。息が止まりそうになった。
彼の顔を私はよく知っていたのだ。

「円城寺(えんじょうじ)くん……」
「武藤月子(むとうつきこ)さん」

彼は私の名をつぶやき、すぐにハッとした様子で自分の職務に戻る。看護師らに声を張る。

「CTとレントゲンいきます」

運ばれていく後輩と、懐かしい彼の背を見つめ、私はしばしその場から動けなかった。

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