元カレ救命医に娘ともども愛されています
和馬のお父さんはこちらを品定めするようにじろじろ見て、それから鼻を鳴らした。

「これがおまえの言う結婚したい人か。私の勧める相手との縁談を断ってまでそう言うのだからどんな女かと思ったら……」

ぎょっとしたのは縁談という言葉に対してだった。
和馬に縁談? 私はまったく聞いていない。

「格別美人というわけでも、若いわけでもないじゃないか。どうして彼女がいいんだ」

和馬のお父さんは私に対して一切口をきいていない。すべて和馬に対しての言葉だ。私を同じ人間として見ていないのではないかと感じられる言葉の数々に、さすがに啞然とした。

「父さん、それ以上くだらないことを言うなら許さないよ……」
「許すも許さないもない。おまえが子どもの頃から言っているぞ。おまえと翔馬の仕事は、円城寺家を繁栄させることだ。医者になり病院を盛り立て、利益になる妻を娶り、たくさんの子どもを成す。勝手に外国に行った翔馬はもう知らん。その分、おまえの結婚には力を入れている」

そこでようやく和馬のお父さんは私を見た。笑っていたけれど、無機物のような瞳に私は映っていない。

「わかったかね、お嬢さん。和馬の相手はこちらで見つける。玉の輿の夢は捨てるんだな」
「父さん、やめてくれ。もう帰ってくれないか!」

和馬が私を背に庇うように前に立ちはだかった。その態度に和馬の父親は苛立った表情を見せる。

「おまえはまだわからないのか!」

ちょうどそこへマンションの他の住人が通りかかり、和馬の父親は怒声を引っ込めた。すかさず和馬が言った。

「近いうちに実家に戻る。そのときに話そう。悪いけど、今は父さんの顔を見ていたい気分じゃない」

和馬はオートロックをはずし、私の背を押し込むようにドアの向こうへ。父親を置き去りに場を去った。
私はショックと混乱のまま、帰るとも言いだせずに和馬の部屋についていくのだった。

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