元カレ救命医に娘ともども愛されています
タクシーの後部座席に身体を預け、あと数時間で年が明ける街を眺めながら、琴絵さんと暮らす家へ向かう。身体を重ねた余韻で、じんわりとした疲労を感じた。

(和馬、忙しそうだったな)

久しぶりに行った和馬の部屋は、少々荒れていた。生活の場ではないのが伝わってくる有様で、冷蔵庫は空っぽだったし、どの部屋もしばらくカーテンを開けていないように見えた。クリーニングから戻ってきた衣類がカーテンレールにひっかけてあり、グラス類以外の食器が使われた形跡もなかった。

(私が和馬のお嫁さんになったら、多忙の和馬を支えてあげられるんだろうか)

私は私で、いつも仕事でいっぱいいっぱいだ。今は琴絵さんとふたり暮らしだから、お互いに補い合ってどうにかなっているけれど。

(和馬に必要なのは完全サポートをしてくれるお嫁さんだろうな)

前時代的だと思う。だけど、どうやっても家事に携われないほど忙しい職種の人はいて、そうなれば一緒に暮らす人間がサポートするのがスムーズな生活になるだろう。
和馬は私と結婚すれば努力してくれる人だと思う。家事の分担はしてくれるだろうし、子どもができれば育児も頑張ってくれるだろう。でも、それが彼の負担になったら悲しい。そしてあのお父さんは、和馬をサポートできない女性を嫁とは認めてくれないのではなかろうか。

(仕事を辞めろって言われたらどうしよう。もちろん、和馬が何より大事だけれど、私がここまで積み重ねてきたものだって、簡単には捨てられないよ)

そもそも、和馬の父親との対面はいまだ予定も立っていない。和馬は説得しきれていないのだ。

(新年は色々と先に進めるといいな)

家は間もなく。恋人と食事に出かけていた琴絵さんも先ほど戻ったと連絡があった。年を越す瞬間はふたりで買い置きの甘納豆でも食べよう。
そう考え、私は束の間目をとじた。
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