元カレ救命医に娘ともども愛されています
「先輩、昨晩は本当にありがとうございました!」

お見舞いにやってきた病室、後輩の桜田萌美(さくらだもえみ)はぱちんと手を合わせて頭を下げた。

「桜田さん、まだ横になってなきゃ駄目でしょ。手術したんだから」

ベッドを傾けて起こした姿勢でいる後輩に注意すると、彼女は平気そうな様子で答える。

「傷は痛いですけど、起こしていてもいいみたいです。大丈夫ですよ」
「でも、盲腸が破れてたって桜田さんのお母さんから聞いたよ」

桜田さんの診断は急性虫垂炎、膿が漏れ出ていて腹膜炎の危機だったのだ。昨晩私は救急車に同乗後、駆けつけた彼女の両親に事情を説明して病院を後にした。先輩とはいえ、後輩の病名を勝手に聞くわけにはいかない。彼女のお母さんが、今朝電話で教えてくれた。

「救急のお医者さんと、執刀の外科医がふたりともイケメンだったんで、それだけは眼福でしたけど」
「余裕あるじゃない」
「え~? 普通チェックしません?」

彼女の言うイケメン医師のひとりに心当たりがあり、どきんとしてしまうが表情には出さない。

「月子先輩が男性に興味なさすぎなんですよ。ロングヘアさらさらのキリリ美女なのに、社内の男性のアプローチなんか全部スルーじゃないですか。もう少し異性を意識してくださいよ~」

残念ながら桜田さんが言うほどモテてはいない。自分ではきつそうに見えると思っているし、実際男性にウケがいいのはもう少し甘い雰囲気で優しい女性だと思う。

< 3 / 40 >

この作品をシェア

pagetop