元カレ救命医に娘ともども愛されています
なんとなく険悪なまま和馬のマンションから帰宅した翌日、職場に来客があった。
仕事中だったし、アポイントの覚えもない。しかし、受付の女性の『済々会グループの円城寺様がお見えです』という言葉にぎょっとした。
和馬ではない。
済々会は、和馬の実家の総合病院の名前だ。
仕事を抜け、急遽とった来客スペースに向かうと、和馬の父親は簡素な椅子に座って待っていた。取引先の担当者らと打ち合わせする簡易スペースしか空きがなかったのだが、案の定不機嫌そうな顔をしている。私を見るなり「まともな応接室もないのか」と文句を言った。

「お父さま、突然どういったご用件でしょう」
「きみにお父さんと呼ばれる理由はない」
「円城寺さん……」

私は向かいの席に座った。気圧されたくはなかったので、まっすぐ前を見る。

「今日はきみに話をしにきた。武藤月子さん、いい加減和馬をそそのかすのはやめてもらおうか」

私はぐっと詰まった。周囲のテーブルとはパーテーションで区切られているとはいえ、会社でこういったプライベートな話をされたくない。さらには、和馬とのことをお父さんが直接意見しに来るとは思わなかった。

「先日もやっとこぎつけた見合いの席で、あいつが何を言ったと思う。結婚をする気がないと。見合いの場で親に恥をかかせるとは。きみの指示だろう」
「指示なんてしていません」

私は憤りを抑え込んで答えた。和馬の父親は、私の返事など聞いてもいない様子でふうと息をつく。
< 31 / 71 >

この作品をシェア

pagetop