元カレ救命医に娘ともども愛されています
「和馬さんは、円城寺さんのものではありません。あなたが自由に未来を決めることはできません」
「きみのものでもないだろう」
「ええ。和馬さんの人生は和馬さんだけのものです。和馬さんが決めなければいけないんです」

男まさりと言われようが、言っておかなければならない。目の前の男性は、価値観が凝り固まっていて、自分が間違っているなどと思っていない。
間違っていると声を上げることは絶対に必要だ。

「和馬の結婚は、円城寺家の繁栄のため。和馬の意志は関係ないんだよ」
「そんなのおかしいです。個人あっての家ではないのですか?」

一歩も引かない私に、和馬のお父さんも攻撃の仕方を変える気になったようだ。眉をあげ、品定めするように私を見る。

「武藤月子さん、きみはキャリアウーマンだろう。仮に和馬と結婚したとして、仕事を捨てることなんてできるのかね」

それは私自身も考えていたことではあった。

「仕事を捨てることはしません。和馬さんと協力して生活していきます」
「わかっていないな。医者の妻というのは献身的に夫を支えるべきなんだよ。滅私奉公というほど尽くせなければ妻失格だな」

そういうことを強いたから、ご自分は奥様に離婚されたのでは? 口元まで出かかった反論を飲み込む。喧嘩をしたいのではない。

「和馬の縁談相手については聞いているかい。峯田物産グループの令嬢で二十二歳。済々会病院に大きな利益をもたらす花嫁でね。何より若い。きみは和馬より年上だったね。仕事を優先し、年も上。円城寺家の跡継ぎを何人産んでくれるかもわからない」

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