元カレ救命医に娘ともども愛されています
和馬にとって一番いい未来はなんだろう。ベストな未来だ。
医師の仕事を続けること、理解あるパートナーに恵まれ、愛し愛されること。
私が身を引けば、それらは叶うのではないだろうか。
縁談相手の若い令嬢と結ばれ、たくさんの子どもに恵まれる。良妻賢母の妻は、彼の生活を完全にサポートするだろう。彼にとって居心地のいい環境を作るだろう。
そして、和馬はなんの確執もなく、いずれ父親の跡を継ぐ。
彼の父親の脅しともとれる発言を明らかにすれば、和馬は怒るに違いない。そして、やれるものならやってみろと父親と対立する。結果、今の高度医療救命センターを辞めなければいけなくなるかもしれない。辞めたとして、医療に携わる以上、お父さんの圧力からは逃れられないのではないだろうか。
捨てるものが多すぎる。
そして、和馬がすべてを捨てて私を選んでくれたとして、私は彼が失った分を与えてあげられるのだろうか。
和馬のために仕事を辞め、子どもを産み、医師である彼を支えれば、慎ましくも幸せな生活が手に入るのだろうか。
私には自信がない。
結婚を考え始めてから、和馬とは険悪になる瞬間が増えた。彼の父親という存在は大きいけれど、一方で和馬への些細な不安や不信感が疲労のように私の身体に蓄積していた。
どうして言ってくれないの?
どうしてお父さんを説得しきれないの?
何不自由なく暮らしてきたあなたに、今の生活を捨てる覚悟があるの?
私を選ぶなんて言葉、軽々しくて聞いていられないよ。
そんな不満や不安がある一方で、それらすべてを凌駕するほどに和馬が好きだった。
一生に一度の大恋愛をしたと思っていた。大事すぎて、絶対に幸せになってほしかった。相手が私でなくてもいいと思い詰めるほどに、私は和馬を愛していた。
……和馬との未来を、私は選べない。
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