元カレ救命医に娘ともども愛されています
「別れたい」

そう口にした私を、和馬は信じられないという顔で見つめていた。場所は彼のマンション近くのカフェだった。寸暇を惜しんで会う場所のひとつだ。

「どうしてそういう心境になった?」

和馬の口調は詰問口調ではない。ただ、焦燥と困惑が伝わってきた。

「最近、しっくりいっていないじゃない」
「将来について話し合えば、意見の食い違いは起こるだろう」
「意見の食い違い……。そうだね。お互いにイライラしたり、相手を不甲斐なく想ったり……嫌な感じになっちゃうのは自然かも。でも、私たちの争いのほとんどはあなたのお父さんの件でしょう」

私はわざと蓮っ葉な口調で言い、皮肉げに笑って見せた。

「もう疲れちゃった。私も仕事が忙しいし、これ以上和馬とお父さんのごたごたに巻き込まれたくない」
「……月子にこれ以上嫌な思いはさせない。約束する」
「縁を切るっていうんでしょう。何度も言うけれど、そんなに簡単に親子の縁は切れないよ。向こうは干渉してくるし、その都度私は嫌な思いをする。そういうの重いんだ。……和馬への気持ちが冷めるくらいに」

嘘だ。気持ちが冷めるはずがない。
和馬が好きだから別れたいのだ。私では支えきれないから離れたい。
だけど、けっして本音は言えない。嫌な女になってもいい。嫌われて終わりがちょうどいい。

「もう、好きじゃない。別れたい」
「俺は月子が好きだ。別れたくない」
「子どもみたいなことを言わないで。片方の気持ちが離れたら、恋愛は終わりでしょう」
「子どもみたいだと言われても構わない。俺は納得できないよ。月子が、そうも容易く気持ちがなくなったというのが信じられない」
< 36 / 158 >

この作品をシェア

pagetop