元カレ救命医に娘ともども愛されています
この公園は、大学時代に夜の撮影に来た場所だ。和馬と並んで撮影したあの日が昨日のことのように思い出される。あの頃の私たちはまだ先輩後輩で、互いに好意があったのに言い出せないでいた。

(付き合っているとき、一度も撮影に出かけなかったな)

お互いに写真撮影が趣味だったのに、一緒にでかけなかったのは悔やまれた。私は社会人になってから、なかなか撮影に時間を割く気持ちになれず、遠ざかっていた。和馬もそうだったかもしれない。恋が叶ったことに夢中で、お互いしか見ていなかった。
もっと、色々なものを見ればよかった。一緒に体験すればよかった。手を繋いで、遠くまで出かければよかった。
私たちの恋の思い出のほとんどは夜の街にしかないのだ。

(真優紀、今日はね、ママとあなたのパパが付き合いはじめた日なの)

約七ヶ月の短い交際期間だった。だけど、私は一生分の恋をした。私のすべてを使って彼を愛したつもりだ。

(誰にも言わない記念日、一緒に思い出の場所に来てくれてありがとう)

心の中で娘に御礼を言う。ビルの向こうに、大きな積乱雲が見えた。青空を侵す白い雲を眺め、私は立ち上がった。

「真優紀、着替えたらお買い物して帰ろう。デパ地下で琴絵おばちゃんの好きなヒレカツとラザニア買っちゃおう」
「ぶーううう」

真優紀は声をあげ、腕をあげた勢いでマグが床を転がっていった。
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