元カレ救命医に娘ともども愛されています
「誕生日にとんでもないサプライズになっちゃった」

時短勤務で十六時に会社を出た私はエントランスを抜け駅へ向かっていた。
昼に桜田さんから聞いた話で、頭はずっと混乱と焦燥をきわめていた。

(和馬は私が出産したことを知っている)

どうしてわかったのだろう。連絡を絶ち、和馬の家からは離れた地域に引っ越した。会社は変わっていないけれど、和馬と偶然遭う確率は低い。真優紀連れで会う可能性はほぼないはず。

「月子」

その声は正面から聞こえた。顔をあげ、歩道の人波の中に懐かしい姿を見つける。
なんとも言えない感情が湧き上がってきた。
円城寺和馬は、まっすぐに私を見つめていた。

「どうしたの、こんなところで」

そう答える声が震えないように意識した。動揺したところを見せてはいけない。

「誕生日おめでとう。急に会いに来てすまない」

その声は抑揚がなく、どこか冷たくも響いた。

「別れた女の誕生日を祝いに来ないでしょう」

横を通り過ぎようとすると、手首をつかまれた。

「少し話せないか?」
「悪いけれど、急いでいるの」
「保育園に娘のお迎えがある?」

やはり本題はそれだ。私は手を振り払い、キッと和馬を見据えた。

「話すことはないよ」
「俺にはある。近いうちに、時間を作ってほしい」
「時間を作るつもりもない」
「きみの娘について話がしたい。俺の子である可能性がある以上、放ってはおけない」

和馬は真優紀を自分の娘だと疑って、わざわざ私に会いに来た。桜田さんの口から私に話がいくことも見越していただろう。
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