元カレ救命医に娘ともども愛されています
二日後の正午、私は病院を訪ねた。先日和馬が会いに来たのは夕方だった。あの頃と勤務体制が変わっていなければ、おそらく今日は出勤日だ。昼時なら、休憩に入るタイミングで会いやすいだろうと考えたのだ。
私は有給休暇を取っている。時間に余裕があるから、和馬の時間に合わせられる。
受付ではなく、事務室で和馬の名を告げた。元患者の身内で、名前を伝えてもらえればわかると説明すると、事務室の職員はいぶかしげな顔をしたものの、和馬につないでくれた。
十分ほど待つと、和馬が現れた。込み入った話を想定してか、白衣から着替えてシャツとスラックス姿だ。

「月子、会いに来てくれてありがとう」
「……話をしにきたの。手短に済ませるから」
「どちらにしろ、ここは人も通る。病院から離れよう」

和馬の立場もあるので、提案に従う。病院は都心部にあるので、昼時のオフィス街は昼食を求めて外に出てきた会社員であふれていた。

「覚えてるかな。静かな店に行こう」

そう言って和馬が向かったのは、病院から二本先の路地にある古い喫茶店だった。昔、和馬の仕事が終わるのを、ここで待っていたことが何度かある。

「コーヒーが美味しい店」
「ハムサンドもね。昼、まだだろう。軽食も頼もう」
「和馬は頼んで。私はいい」

目を伏せ、注文が終わるのを待った。顔をあげると、和馬の瞳と目が合う。久しぶりに絡んだ視線に、はからずも胸が高鳴った。
もう、忘れたはずの想いなのに。

「娘のことを話しに来た」
「ああ」
「和馬の子ではないと私が主張したらどうする?」
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