元カレ救命医に娘ともども愛されています
「きみと娘を、俺の手で守っていきたい」
「和馬……それは……」
「真優紀、というんだろう。遠くからでも明るい笑い声が聞こえたよ」

狼狽する私をよそに、冷静だった和馬の声にはどんどん感情が戻り始めていた。

「きみと別れてから、もう誰とも恋をしないと心に誓って生きてきた。きみに会いたくても、連絡してはいけないと自制してきた。この夏、遠目できみと赤ん坊を見た。大学時代に撮影をした公園で。俺たちが付き合い始めたあの日に」

泣きそうな気持ちになるのをぐっとこらえた。
ああ、あの日を特別に思っていたのは私だけではなかったのだ。和馬の心はまだ燃えている。

「調査会社を経由してきみを調べ始めた。別れた男がしていいことじゃないと思いつつ、もしあの可愛い赤ん坊が俺の子だったらと思うといても立ってもいられなかった」

和馬の手がテーブルの上で震える私の手に重ねられる。
喜びとも不安とも後悔ともつかない混乱する頭を叱咤し、私は首を振り、手を引っ込めた。

「和馬との恋は終わったんだよ。もうどうにもならない」
「そんなことはないだろう。俺はきみと真優紀と三人で暮らしたいと思っている」
「縁談はどうなったの? あなたには円城寺家を継ぐ使命があるでしょう」
「きみと別れたとき、誰とも結婚しないと俺は誓ったよ。きみ以外の女性なんてほしくない。縁談は改めて断ったし、父とも今は距離を置いている」

和馬はダークブラウンの瞳に情熱を宿らせ、鋭い視線で私を絡めとり離してくれない。

「月子、やり直してほしい。俺を真優紀の父親にしてくれないか」
< 54 / 129 >

この作品をシェア

pagetop