元カレ救命医に娘ともども愛されています
あのとき、どれほどの気持ちで別れたのか。和馬の仕事を人質に取られ、和馬の未来の責任が取れるのかと思い悩んだ。すれ違いが背中を押した。結果、あたたかな手を自分から離した。

「無理よ。時間が経ちすぎてる」

私は力なく首を振った。拒絶しなければならないと強く思った。今なら、和馬はまだ人生の軌道修正ができるはずだ。

「一緒にいれば同じことの繰り返しになる。私は多忙なあなたを支えられないし、お父さんに真優紀の存在を明かしたくない」
「父にはけっして関与させない」
「口ではなんとでも言えるわ。私はもう関わりたくないの。どうか、私と娘のことは忘れて」
「……月子の気持ちはそうなんだな」

和馬が言った。落胆や悲しみではなく、思いつめたような真剣な表情をしている。

「月子を不安にさせ続けたのは俺だ。父との件では、さぞ頼りなく感じただろう。別れを告げられても仕方なかった。だけど、俺の気持ちはいまだ変わっていない。きみと子どもを放っておくことはできないんだ。もう一度、月子に愛してもらえるように努力をする」
「やめて、そんなこと」
「大学時代からずっときみが好きだった。きみの気持ちを尊重して別れたけれど、やっぱりきみを失いたくない。子どもがいるなら余計に」
「あなたは関係ない。私と真優紀はふたりでやっていけるの。父親はいらない」

強い口調になってしまい、いっそう狼狽した。こんな冷たい言い方ではいけない。冷静に、感情的にならず別れを告げるのだ。
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