元カレ救命医に娘ともども愛されています
「私と?」
「他にいないでしょう」
「……あまり気を遣わない店ならいいよ」

そう答えたのは、敷居の高い店に行きたくないのではなく、学生時代からの知り合いである彼とはあの頃のような気安い店に行きたかったから。
その方が仰々しくないし、先輩後輩の関係に似合う。

「スマホの連絡先、当時と変わってないですか?」
「うん。メッセージアプリもそのまま。普通に送れるよ」

私はスマホを取り出した。彼とのトーク履歴は残っていなかったけれど、名前とアイコンは見つけ出せた。スタンプをひとつ、トークルームに送る。

「連絡します、絶対」
「ありがとう。それじゃあね」

私は手を振り、踵を返した。駅に向かって歩きつつ、彼がまだこちらを見ているような気がした。振り向いてしまいたいような、そんな感覚。やめよう。自意識過剰すぎる。

< 6 / 40 >

この作品をシェア

pagetop