元カレ救命医に娘ともども愛されています
和馬との約束は十日後の日曜日だった。
彼が最初に私と真優紀を見かけたという都内の公園で待ち合わせた。十一月の公園は冷たい風が吹いていたものの、紅葉した木々を見る散歩客も多かった。
私はジーンズにニット、ダッフルコート。真優紀は全身を覆うカバーオールを着せた。足が出るタイプで、外用のスニーカーを履かせている。冷たい風で、真優紀の頬はりんごのように赤くなっていた。
ベンチに腰掛けた和馬を先に見つけたのは私で、そのままベビーカーを押して近づいた。かさかさと落ち葉が鳴り、だいぶ数の少なくなったとんぼが一匹、ついと横切っていった。
真優紀は意味の通じないお喋りをしていたが、私が男性の前で止まったので、お喋りをやめた。人見知りがあり、特に知らない男性が怖いのだ。毎日会う保育士の男性先生や、ちょくちょく家にやってくる浅岡さんなどは慣れているので泣かないのだけれど。
和馬は私たちが近づいてくる途中で気づき、顔をあげて待っていた。

「お待たせ」
「月子、今日はありがとう」

私がベビーカーを止めると和馬は立ち上がり、真優紀の前にかがみこんだ。顔をよく見たいと思ったのだろう。
しかし、それがよくなかった。知らない男性の接近に、真優紀はふるふると唇をふるわせ「ふえ、ふえ」と泣きそうな声。顔はくしゃくしゃに歪み、次の瞬間に大きな泣き声が響き渡った。
和馬は立ち上がって、真優紀から見えない位置へ移動した。仕事柄、小さな赤ん坊が患者ということもあるだろう。刺激しないように視界から外れたのだ。
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