元カレ救命医に娘ともども愛されています
(なにより、私の気持ちが揺れてしまう)

和馬を好きだった記憶は、離別、出産を挟んで封印してきた。それなのに、こうして家族のような距離でいれば心はあの頃を思い出す。
目の前でぱしゃんと音をたててペンギンが一羽、水に飛び込んだ。それを見て真優紀が歓声をあげる。

「おおー、じゃぶんってしたね。泳ぐのも速いなあ」

透明なプールの壁を指さし、和馬が真優紀を見た。すると、真優紀がにかっと笑った。和馬に向けての笑顔だった。

「真優紀、今、笑った? 笑ったでしょう」

和馬が真優紀を覗き込み、びっくりしたような嬉しいような様子で話しかけ続ける。真優紀はまたきゃはっと笑い声をあげた。

「月子……今、真優紀が……」

嬉しさと感動がないまぜになった顔を私に向ける和馬。その様子に、私もつられて感動しそうになる。こらえたら笑みをかみ殺したような妙な顔になってしまった。

「和馬がはしゃいでいて、子どもみたいに見えて面白かったんじゃない?」
「そうか……そうか。ああ、やっと笑ってもらえた」

万感こもるその言葉に、胸が締め付けられた。彼はただひたすら、娘に笑顔を見せてほしくてこのふた月ほどの時間を捧げてきた。努力が実って、真優紀に受け入れられて、こんなに喜んでいる。

(愛してくれているんだ。私が産んだ娘を)

その純粋で強い気持ちを前に、私は自分の感情がひどく子どもっぽく思えた。勝手に意識して冷たい態度を取るのではなく、大人として接すればいいのに。私の恋が大人であろうとする心の邪魔をする。

「月子」

和馬が再び、私の名を呼んだ。
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