元カレ救命医に娘ともども愛されています


円城寺和馬は大学が同じ。写真部のひとつ下の後輩だった。
写真部は全メンバーで二十名ほどしかおらず、皆仲がよかった。撮影旅行にも頻繁にでかけたし、ちょっとしたレクリエーションや飲み会もしょっちゅう開催された。
私と円城寺くんは、確かに仲がよかった。私のうぬぼれでなければ、先輩としては好かれていたと思う。

『月子さんの撮る夜の風景が好きだな』

彼はそう言った。私を名前で呼ぶ後輩は彼くらいだった。誰かにそれをからかわれたこともあったけれど、彼はやめなかった。

『名前に月が入ってるせいかな。月夜が好きなの』

この夜は部員数名で、都内の公園に集い、月に照らされる都心のビル群を撮影していた。私は格別に夜の景色を好んだ。夜景だけでなく、月に照らされぽつんとたたずむ公園の遊具や、工場の灯りたち。そういったものを何枚も写真に収めていた。

『すごく雰囲気があります。静かで、優しい空気を感じる』

円城寺くんはカメラをのぞく私の横に立ち、真摯な声音で言った。

『この前の展示で歩道橋から東京タワーを撮った作品があったでしょう。寂しくて、凛としていて綺麗でした』
『ありがとう』
『晴海ふ頭の夜景もよかったなあ。圧倒されました』

あまり裕福ではない私は、亡くなった父のおさがりの一眼レフを使っていた。技術もなく、好きという気持ちだけで撮影していたので、彼が褒めてくれたのは嬉しかった。

『でも、夜の撮影はひとりでは駄目ですよ。必要なときは呼んでください。ボディガードをしに行きますから』
『円城寺くんも忙しいでしょ。悪いよ』
『月子さんに何かある方が嫌なので』

彼はそう言ってさわやかに微笑んだ。まだ幼さの残る彼は、純粋で一生懸命だった。
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