元カレ救命医に娘ともども愛されています
5.トラブル
この人はもしかしなくても……。そう思った瞬間、私は口を開いた。
「こんにちは、円城寺さんの友人の武藤といいます」
女性はにこりと微笑み、お辞儀をした。
「はじめまして。峯田麗亜と申します。和馬さんの婚約者です」
やはり、和馬の縁談相手だ。婚約者……直接断ったと聞いていたけれど。
「麗亜さん、俺は結婚できないとお断りしたはずです。婚約者ではありませんが」
和馬は明らかな苛立ちを隠さずに訂正した。
「まあ、ひどいことをおっしゃるんですね。私は頷いておりませんよ」
彼女は真面目に憤慨しているようだ。その怒り方はおっとりしていて、やや幼くも見えた。
「双方の家族が合意しているご縁ですよ。私は婚約していると思っています」
和馬は反論しかけて、嘆息した。困惑した顔をしているところを見ると、彼女は常からこの調子なのかもしれない。
「だからこそ、ご意見いたします。和馬さん、私というものがありながら、女性と……しかもお子さんを連れた既婚の方とみだりにふたりきりでいらっしゃるのはどうかと思います」
熱心に忠告してくる様子に、和馬はなんと返そうか一瞬躊躇したようだ。
その間に彼女は私に視線を移した。
「武藤さんとおっしゃいましたね。ご友人とはいえ、既婚の女性が独身男性と親しく会うというのは誤解を招くのではないでしょうか。和馬さんには私がおりますので、今後は控えていただければと思います」
面食らいつつ、なるべく冷静に返事を考える。初対面の人間にこんなことを直接言えるというのはどういう人なのだろう。彼女は大真面目の様子なので、もしかするといわゆる天然というタイプなのだろうか。