元カレ救命医に娘ともども愛されています
「あなたね、非常識だとは思わないのか。あなたの姪はうちの息子の子を勝手に産んで、いまだにたかりをしているんだぞ。おかげでうちの息子の縁談はめちゃくちゃだ」
「当人が納得していない縁談だと聞いていますが? いいご年齢にもなって子どもの人生を思う通りにできると妄想しているなら、ご病気ですよ。お医者様と聞いてますが、メンタルヘルスのほうはご専門じゃない?」

琴絵さんの煽りスキルが高くて、私がハラハラしてきた。このままでは余計に怒らせてしまうのではないだろうか。そうだ、浅岡さんを呼ぼう。温厚で熊のように大きく頼りになる浅岡さんに仲裁してもらうのはどうだろう。
そのときだ。

「父さん!」

玄関からもうひとつ声が聞こえた。その声を知っている真優紀が私の腕の中で「あー!」と声をあげた。
和馬だ。どうして、ここに?
私だけ隠れてはいられず、真優紀を抱いて玄関に飛び出した。

「月子! 真優紀!」

和馬が私たちを呼ぶ。数時間前に別れたままの格好をして、急いだのか髪の毛は乱れていた。

「和馬、おまえがどうしてここにいるんだ!」
「父さんが出かけるときは連絡をくれと家の者に頼んである。月子と真優紀に何をするかわからなかったからな」

和馬は苦々しく言い、琴絵さんに向かって頭を下げた。

「琴絵さん、ご無沙汰しています。父が大変失礼いたしました」
「和馬くん、久しぶり」
「おい! 何を謝ってるんだ!」

和馬の父親が声を荒らげた。

「そもそも和馬、おまえがしっかりしていないから、こんな女にたかられるんだぞ! 二年前、せっかく私が追い払ってやったのに、なぜ子どもなんか……!」
「『追い払った』……?」

和馬がその言葉を反復した。それは和馬の知らない真実で、彼にはその言葉の意味が一瞬ですっかり理解でき、合点がいったようだった。
瞳には言いようのない憤りが宿っていた。




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