元カレ救命医に娘ともども愛されています
6.消せない想い



「『追い払った』というのはどういう意味なんだ、父さん」

和馬は底冷えのする低い声で自身の父親に詰め寄った。詰め寄られた方は、ふんと鼻で息をつくと、開き直った様子で答える。

「そのままの意味だ。月子さんに和馬と別れなさいと諭した」
「なんて勝手なことを……!」

和馬が私を見た。どうして言ってくれなかったのだという表情をしている。私の代わりに琴絵さんが口を開いた。

「和馬くん、月子は言わないだろうから私が言うけれどね。あなたのお父さんは月子に言ったんだよ。『別れないなら、野木坂病院に圧力をかけて息子の職を奪う』ってね。月子は和馬くんが救命医の仕事に誇りを持っているのを知っているから、和馬くんを守るために別れたんだよ」
「琴絵さん……!」

和馬は何も知らないし、それでいいと思ってきた。こんな形で知られてしまうなんて。
和馬は琴絵さんを見て、私に確認するような視線を投げた。うつむきがちな私から、自身の父親に視線を移動させる。ブラウンの瞳に鋭い怒りが閃いた。

「諭した、なんてよく言えるな。月子を傷つけ、俺の仕事を脅しの道具に使ったと?」
「おまえが素直に別れないからだろう。峯田家の麗亜さんなら、おまえに相応しい。若く健康で、子どもも多く産めるだろう。家事全般は得意だと言っているし、教養も高い。外で仕事をしたいなどと我儘も言わない。どうして麗亜さんじゃ駄目なんだ」
「話す価値もない」

吐き捨てるように和馬は言った。
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