元カレ救命医に娘ともども愛されています
「前時代的な夫婦の価値観を理想にあげ、俺の妻を勝手に選んだようだけれど、要は資産のある峯田家となんとしても縁付きたいだけだろう。俺のためじゃない、病院のためだ」
「和馬、どうしてそう聞き分けのないことを言うんだ。済々会は多摩地区の医療を担う大病院なんだぞ。さらに経営を広げていくことは地域の住民のためだ。資産のある家との繋がりがいかに大事かわからないとは言わせないぞ」
「自分の手に余る経営はすべきじゃない。何も済々会だけが多摩地区の病院じゃないんだ。大義名分をかかげているが、父さんの言っていることは私利私欲だよ。だから、兄さんだって家を出たんだ。……そして、俺ももうあなたとは関わらない」

和馬が厳然たる口調で宣言した。和馬の父親が顔色を変える。

「何を言っている……!」
「円城寺家とは縁を切ります。済々会病院も継ぎません。月子と真優紀と生きていきます」
「私の言うことが聞けないなら今の病院に勤務は続けられないぞ」

顔を紅潮させて怒っている父親を見つめ、和馬は深いため息をついた。自分の父親が私に対して言ったことを、再びなぞっていると感じたのだろう。

「お好きにどうぞ。医者の仕事はどこででもできますから。そんなことの何倍も、俺には月子と真優紀が大事です」

和馬の冷静な言葉に、彼の父親の方が怒りを爆発させた。「おまえというやつは」というが早いか、和馬の襟首をつかんだのだ。和馬も背が高くがっしりした体格をしているが、お父さんもまた和馬に近いほどの身長がある。
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