元カレ救命医に娘ともども愛されています
和馬は車で駆けつけてくれたようだ。近くのコインパーキングに乗用車が停めてあった。

「中で話そうか」

以前付き合っていたときに乗っていた車とは違う。助手席に座ると、運転席の和馬が私を見た。

「知らなかった。きみが父に脅されて、俺のために別れを選んだということ」

頭を下げ、和馬は続ける。

「本当に申し訳なかった。きみにそんな選択をさせてしまった」
「……和馬のお父さんの言葉は当時の私には大きかった。だけど、別れを選択したのは私。私たちはすれ違っていたし、私自身が和馬と生きていく未来を描けなくなっていた」

これは本音だ。車内に重い沈黙が流れる。
しばらくして和馬が口を開いた。

「月子にとっては終わった恋愛なのは変わりがないんだな」
「……そうだよ」

頷いて、窓の外へ視線をやった。

「ごめん、やっぱり納得できない。あの頃の月子が俺を嫌いで別れたわけではないのがわかったから。月子がもう一度俺との未来を描けるようになるまで、俺は待つし、気持ちを伝え続ける」
「困るよ。和馬には和馬の生活がある。仕事がある」
「月子と真優紀との人生以上に必要なものなんかない。月子が好きだ」

私たちの間に再び沈黙が流れた。それは私が返事をしなかったから訪れた静寂。
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