元カレ救命医に娘ともども愛されています
それから和馬は週に何度か我が家を尋ねるようになった。だいたいが夜で、お土産を持ってやってくる。夜勤明けや休みをつぶして会いに来るので、「そこまでしなくていい」と言っているが聞いてくれない。
浅岡さんが遊びに来ている日に被ることもあり、浅岡さんともすぐに親しくなった。もともと和馬は社交的な好青年だし、浅岡さんは誰に対しても友好的で穏やかな人だ。
真優紀は家がにぎやかになる夜が嬉しいらしく、大人四人に囲まれ、お喋りがどんどん上手になっていった。
一歳を過ぎた頃から「ママ」はたまに聞くようになったけれど、それ以上の発語はなく、喃語ばかりだった。それが一歳四ヶ月を迎える今はぐっと言葉が増えた。琴絵さんを「こっしゃん」と呼び、「あい」「どーじょ」などの言葉も、家族のコミュニケーションの中で覚えたようだ。和馬のことをパパと呼ばないのは、私や周囲がそう教えていないからだ。和馬自身も自分を「パパ」だとは言わない。
それでも、我が家の団らんに加わる和馬は嬉しそうだった。
和馬が真優紀を膝にのせ、笑い合っているところを見ると胸が疼いた。
私はどうしたいのだろう。お父さんのことが露見してしまった以上、以前ほど私の拒絶に効力はないだろう。
私だって和馬が好き。その気持ちが彼に伝われば、和馬は今度こそ私と真優紀を離さないだろう。だけど、本当にそれでいいのかわからない。
今でさえ精一杯の私が、家族を営んでいく自信がないのだ。
ただ、琴絵さんとあの晩話したことは、希望のように心の片隅で輝いていた。二年経ち、私がずっと囚われていた価値観は、間違っているかもしれない。私たちには可能性があるのかもしれない。
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