シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
第一章
「リエラ! 玄関を掃除しておけと言ったのに、どうしてまだ終わっていないの!?」
「アハハッ、本当に出来の悪い子ね。出来損ないにあげるようなパンは無いわよ!」

 綺麗に磨いたはずの玄関ホールに撒かれた灰の山。高笑いする義理の姉二人は、雑巾を掛けてあるバケツに向かってパンを投げ捨てた。

「でも古くて硬いパンだからぁ、泥水を吸って丁度良くなるかもね?」
「そうそう! ついでに水分も取れて都合が良いのではなくって?」
 
 無惨な姿となったパンを確認して、姉二人は大層満足げに立ち去る。周囲の使用人たちはそんな様子を「触らぬ神に祟りなし」といった風に見て見ぬふりして、ただ茫然と立つ私の脇を素通りして行った。

「……ううん、突っ立っている場合じゃないわね」
 
 掃除洗濯に針仕事。意地悪な継母と義理の姉二人の召使のように働く私を見ても、お父様は何も言わない。幼少期に実の母親を亡くして以来、私『リエラ・アストル伯爵令嬢』は過酷な家庭環境で育った。
 伯爵令嬢とはとても思えないヒビ割れた手で、バケツの水の中からパンを救出し、ハンカチで包む。そしてそれを小脇に抱えて、灰まみれになった大きなドアマットを引きずって外に出した。
 
「乾かせば真ん中の方は食べられるかしら?」

 そんな淡い期待を抱きながら日当たりの良い場所でハンカチを広げ、パン乾かす。そして薄汚れたドアマットを箒で叩いて灰を落とそうとしたが、元々が茶色く汚れているため洗った方が早そうだ。私はそのまま屋敷の裏庭にある洗い場までドアマットを引きずって行き、洗い場の中に水をためて浸した。それだけでも水が濁り、汚れがぷかぷか浮いてくる。

「うわぁ……すごい汚れ。いつから洗っていなかったのかしら」

 とてもじゃないけど汚れを全て落とすのは無理そうだ。でも綺麗にしておかないと、また義理の姉たちから酷い目に遭わされてしまう。
 私は周りをキョロキョロと確認して、誰も居ない事を確認してから胸の前で祈るように手を組んだ。
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