シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
第二章
「舞踏会、ですか?」
「だからそれまでにこの子達のドレスを直しておいて頂戴。あぁ楽しみだわ、私の娘達は美しいからきっとチャーミング王子にだって見初められるはずよ!」

 本格的に冬の空気が強まってきたある日の夕方。廊下で掃除する私に向かって継母が投げつけたのは、ゴテゴテと沢山の宝石が付いたドレス二着。どうやらこの国の第一王子である『チャーミング王子』の婚約者を探すために国中の令嬢が集められた舞踏会が、来週王城にて開かれるらしい。王子だけでなく数々の名だたる名門貴族のご令息も参加するので、皆気合いが入っているという訳だ。そして継母が言う『私の娘達』に当然ながら私は入っていない。

「リエラ! 返事くらいすればどうなの? お前は本当に愚図ね」
「お母様、もしかして舞踏会ってリエラも行くの? 置いて行きましょうよ」
「ヤダァ、私こんな子の義姉だって知られたくなぁい」

 私だって当然そんな舞踏会にだなんて行きたくない。小声で「私は行きません」と返事すると、義姉たちは満足気に笑って継母と一緒に去っていった。
 
 私はその沢山の宝石のせいで重いドレスを両手で抱えて、よろよろと自分の部屋へと向かう。汚れをつけないように自分の寝台の上にドレスを置いて、小さなランプに入っている油の量を確認した。私に分けてもらえる油は少ないので、極力日中のうちに針仕事を仕上げてしまわないといけない。
 
「……後でランベールに、手元を明るくする魔法を教えてもらおうかな」
 
 そう呟きながら針箱から針を取り出す。ほつれてしまっている糸を切って、ひと針ずつ慎重に針を進めていきながら、私の頭は別の事を考えていた。

(王子の名前……一緒だったな)

 シンデレラの物語に出てくる王子の名前も確かチャーミング王子だった。しかも結婚相手を探して舞踏会が開催されるという所も一緒。
 嫌な予感がする。必死になってシンデレラと私の相違点を探すが、それでも不安は拭えない。どうかこの憂惧が取り越し苦労で終わって欲しい。
 ……そんな風に考えていたら、いつの間にか部屋は真っ暗で月明かりだけでは手元が怪しい時間になっていた。
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