シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
「リエラ、どうした? 今日は魔力の循環が良くない」

 ランベールからそう言われハッと顔を上げると、金色の瞳に心配の色を浮かべたランベールが私の顔を覗き込んでいた。
 そうだ。私はいつも通り夜中に洗濯場でランベールと一緒に魔法の練習をしていて、今日は明かりを灯す魔法の練習をしている最中だったのに。楽しいはずの時間にまで考え事をしてしまう程、私の心の中は不安が占めていた。

「ごめんなさい。今日は針仕事を沢山したから、ちょっと目が疲れてしまっているのかも。あと、手が乾燥してあかぎれになった部分が痛くて」

 私はランベールを安心させようと、適当な言い訳を並べる。ランベールは「……ふーん?」と納得したのかしていないのか分からない返答を返しながら、私の両手を手に取った。

「このくらいの傷、この前教えた魔法を使えば治せるだろうに」

 ランベールはそう呟いて、私よりひと関節以上大きな手で、私の手を握り込むように包む。そしてそこからポカポカと温かい心地の良いエネルギーが伝わってきて。まるで湯船に浸かったかのように、手だけではなくて体の芯までじんわりとした温もりに包まれる。

「ほら。これでもう痛くないだろう」

 解放された私の手は傷が全て治った上、肌荒れの一つすらないツヤツヤふっくらの、まるでお嬢様のような手になっていた。

「凄いわ……ご令嬢の手みたい」
「『みたい』じゃなくて、義理の姉達とは違ってリエラだけは正真正銘アストル伯爵令嬢だろう」

 月に手をかざして、まるで自分の手じゃないような両手を眺める。日本で生きていた時ですら、ここまで美しい手になったことはなかったかもしれない。一瞬でこんなことができてしまうなんて、凄い。
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