シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
「こんな夜中に何を騒いでいるんだい!?」

 どうやら私の声が建物内まで届いてしまったようだ。
 窓から身を乗り出すようにして私を叱りつけた継母は、その後わざわざ裏庭まで出てきて、私を蹴り飛ばた。そして倒れた私の背を足で踏みつける。

「お前にはドレスの直しを命じてあったはずだよ。それがどうしてこんな場所で呑気に遊んでいるんだい!?」
「……申し訳、ございません」
「謝って済む話じゃないんだよ! ……お前、最近よくこのドアマットを洗濯しているじゃないか。それほど気に入っているのかい」

 気がつかれていないと踏んでいた私は、びくりと肩を振るわせる。それを見た継母は、心底意地悪そうな笑みを浮かべた。

「ふん。こんな古い柄のドアマット、捨てて交換した方がいいわ。ちょっとお前達、これを暖炉にでも焚べて焼いておしまい!」

 継母が引き連れていた使用人達が了承し、ドアマットに手を伸ばす。引き留めるにも私は継母に背を踏まれたまま。私は何もできずにその様子を見るしかない。身を捻って必死に継母に訴える。

「だめ、辞めて! お願い!!」
「お前はいつからそんな事を言える立場になったんだい! 私が焼けと言ったら焼くんだよ。お前が呑気に遊んでいるのが悪いのよ、ハハッ!!」
 
 無抵抗のランベールと共に、私は抵抗するも押さえつけら無理やり暖炉前まで連れてこられた。慈悲を求めて継母の足元に擦り寄るが、継母はそんな私を再度蹴り飛ばす。
 
「お願いします。何でもしますから! この家から追い出されても構いませんから……!」

 ──だから。どうかランベールだけは、傷つけないで。
その人は、一番の友人……ううん、それ以上に大切な人なのに!
 
 そんな私の願いは叶わず。ランベールであるドアマットは暖炉の火の中に投げ捨てられた。高貴なアカンサスの模様が、赤々とした炎に包まれて、黒色に変わる。

「や……! ランベール……、嫌っ!!」

 暖炉の方へ向かって手を伸ばしつつ、駆ける。
 間に合って。どうか、お願い。

『──消え』
 
 その時だった。
 シュウッと大きな音を立てて、まるで水をかけたかのように暖炉の火は消え去った。
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