シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
 舞踏会の日の夕方。久々に部屋の外に出た私は使用人達と一緒に義理の姉達の着替えを手伝って、めかし込んだ継母と義理の姉達が馬車に乗り込み王城に向かうのを見送った。馬車が出発しその姿が小さくなっていくのを、心ここに在らずの状態で小さく手を振り見送ったのだが。私にはそれ以上に気になっていることがあった。

(お願いだから、シンデレラとは違う展開になって欲しい)

 どことなくシンデレラと似通った点の多いこの世界。シンデレラではここで魔法使いのお婆さんが出てきて、魔法でドレスやら靴やらかぼちゃの馬車を用意してくれる。そしてシンデレラはありがたくそれを受け取って王城に向かい、王子と出会って恋に落ちるのだ。
 そしてそれは、私が絶対に回避したい未来図でもある。

(大丈夫。もし同じ展開になったとしても、私が受け取らずに拒否すればいいだけよ)

 私がシンデレラと同じ行動をしなければいい。今から部屋に引き篭り眠ってしまえば、魔法使いのお婆さんにだって会わずに済む。そんな事を考えながら、裏口から屋敷の中に入った瞬間だった。
 
「……リエラ」

 足元から聞こえてきたのは、ランベールの声だった。正しいドアマットの使い方としてランベールを踏んでしまった私は、小さく「ごめんなさい、重かったかしら」と謝りつつ上から退く。私が部屋に閉じ込められている間、ランベールは継母の目を避けて裏口付近で寝転んでいたらしい。

「重くはないし、むしろ軽すぎる。リエラはもっと魔法でパンを出して食べろ。……って、私はそんな事を言いたいのではない」
 
 ランベールはドアマットからポンっと姿を変え、人間の姿となる。私は慌てて周りを確認したが──どうやら人の気配は無いようだ。

「先日は騒ぎに巻き込んで申し訳なかった。あれからリエラは部屋に閉じ込められてしまって……酷い目にあったのではないか?」

 どうやらランベールは、私が閉じ込められてしまったのを知り心配してくれていたようだ。
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