シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
第三章
 既に舞踏会は始まっていたようで、広間の中央では着飾った人々が組になってワルツを踊っていた。王城の中に入るなんて初めての私は、勝手が良く分からないのでとりあえず広間の壁に近寄っていく。日本では「壁の花」なんて言葉もあったし、きっとこうして目立たないようにしておけば、何事もなくお開きの時間まで過ごせるのではないだろうか。

(あ……でもランベールに、ちゃんと食事してこいって言われたのだったわ)

 別にそこまで食事に興味があるわけでは無いのだが、帰った時に何を食べたのか聞かれると困る。少しでも何かを口にしておかなければと思い、私は壁から離れて食事が並べられたコーナーへと向かった。

 しかし、少し歩いただけなのに、妙に周りからの視線が突き刺さって痛い。
 好意、羨望、嫉妬……どの視線も、前世の私には身に覚えがあるものだ。ランベール渾身の魔法は、少々出来が良過ぎたらしい。
 
 ──目立ちたくない。

 その思いで私は視線を下げ、極力身を小さくするようにして動く。そんな事をしていたせいか、トンッと誰かに肩が当たってしまった。

「申し訳ございません。前を良く見ていなくて」

 謝罪時まで顔を下げたままにする訳にはいかないので、顔をあげてぶつかってしまった人を見上げる。真面目そうなメガネの男性で、私はホッと胸を撫で下ろした。

(良かった。チャーミング王子ではなさそう)

 黒色の短髪を整えただけの、飾りっ気の無いその男性の姿に安堵する。チャーミング王子がどのような人なのかは全く知らないが、前世で読んだ絵本のイメージそのままの、金髪碧眼の美男子という姿を私は想像していた。
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