シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
「いいえ、構いませんよ。しかし社交界ではお見かけしないお顔のようですが?」
「あ……実は田舎者でして、なかなかこのような場には参加出来ないのです」
『虐げられているので社交界には出られない』なんて言うわけにはいかないので、咄嗟に笑顔で嘘をつく。
「なるほど。しかし貴女のような可憐な人を放置するなんて、婚約者殿は随分と心に余裕がある人のようだ」
「まだ婚約者は居なくて。……目立つのは苦手でして、失礼します」
嘘がバレないうちに撤退しよう。そう考えた私はその男性に頭を下げて立ち去ろうとするが、突然腕を掴まれる。
「では影に隠れてしまう前に、よければ私と一曲踊っていただけませんか?」
「えっ……」
「私もあまりこのような場には出ないのですが。……父に『早く一人決めて踊ってこい』と急かされていましてね。しかし派手な女性はどうも苦手でして……一人選ぶなら貴女が良いと思ったのです。人助けだと思って、一緒に踊っていただけませんか」
本当に困っているのだろう。彼の眉尻は下がり、すっかり苦笑顔だ。
その名前も知らないメガネの男性に同情してしまった私は、地味枠で選ばれたという趣旨の言葉もあって「一曲だけなら」と、差し出された手を取った。
「協力してくれてありがとう」
しかしメガネの男性が私の手を握って広間の中央に歩み出した途端、周囲からどよめきの声が上がった。違和感を覚え男性の顔を見上げる。
「……私は、誰とも踊らないと有名でしてね。きっと物珍しがられているのでしょう」
「急に周りが騒がしくなったので驚いてしまいました」
「驚かせて申し訳ない。ところでダンスはお得意ですか?」
「いえ、実はこのような場では踊ったことが無くて」
幼少期以来踊る機会が全く無かったと言う方が正しいだろうが、それを言うとアストル伯爵家の内情がバレてしまうので誤魔化す。私の返事に気を良くしたのか、その真面目そうな男性はふっと口元を綻ばせ「じゃあ私が初めてですね? 嬉しいです」と呟いて。ランベールのおかげですっかり令嬢らしくなった手の甲に、軽く口付けた。
「──っ!」
ランベールのように魔王の如き美形で色気が漂う人間ならまだしも、こんな真面目そうな男性にそんな行動を取られて驚き、思わず声が漏れてしまう。
しかしこの人は王子ではない。本物の王子は今頃美人なご令嬢達に取り囲まれて黄色い悲鳴を浴びているだろう。
(それに……この人と一緒居れば、王子に見つからずに済むかもしれないわ)
そう考えれば、この隠れ蓑作戦は結構有効な手段に思えた。
「あ……実は田舎者でして、なかなかこのような場には参加出来ないのです」
『虐げられているので社交界には出られない』なんて言うわけにはいかないので、咄嗟に笑顔で嘘をつく。
「なるほど。しかし貴女のような可憐な人を放置するなんて、婚約者殿は随分と心に余裕がある人のようだ」
「まだ婚約者は居なくて。……目立つのは苦手でして、失礼します」
嘘がバレないうちに撤退しよう。そう考えた私はその男性に頭を下げて立ち去ろうとするが、突然腕を掴まれる。
「では影に隠れてしまう前に、よければ私と一曲踊っていただけませんか?」
「えっ……」
「私もあまりこのような場には出ないのですが。……父に『早く一人決めて踊ってこい』と急かされていましてね。しかし派手な女性はどうも苦手でして……一人選ぶなら貴女が良いと思ったのです。人助けだと思って、一緒に踊っていただけませんか」
本当に困っているのだろう。彼の眉尻は下がり、すっかり苦笑顔だ。
その名前も知らないメガネの男性に同情してしまった私は、地味枠で選ばれたという趣旨の言葉もあって「一曲だけなら」と、差し出された手を取った。
「協力してくれてありがとう」
しかしメガネの男性が私の手を握って広間の中央に歩み出した途端、周囲からどよめきの声が上がった。違和感を覚え男性の顔を見上げる。
「……私は、誰とも踊らないと有名でしてね。きっと物珍しがられているのでしょう」
「急に周りが騒がしくなったので驚いてしまいました」
「驚かせて申し訳ない。ところでダンスはお得意ですか?」
「いえ、実はこのような場では踊ったことが無くて」
幼少期以来踊る機会が全く無かったと言う方が正しいだろうが、それを言うとアストル伯爵家の内情がバレてしまうので誤魔化す。私の返事に気を良くしたのか、その真面目そうな男性はふっと口元を綻ばせ「じゃあ私が初めてですね? 嬉しいです」と呟いて。ランベールのおかげですっかり令嬢らしくなった手の甲に、軽く口付けた。
「──っ!」
ランベールのように魔王の如き美形で色気が漂う人間ならまだしも、こんな真面目そうな男性にそんな行動を取られて驚き、思わず声が漏れてしまう。
しかしこの人は王子ではない。本物の王子は今頃美人なご令嬢達に取り囲まれて黄色い悲鳴を浴びているだろう。
(それに……この人と一緒居れば、王子に見つからずに済むかもしれないわ)
そう考えれば、この隠れ蓑作戦は結構有効な手段に思えた。